あのころ

手術

摘出手術はいとも簡単だった。コロンと右眼球が容器に放られる。
部分麻酔で左目は近眼だが視力は回復している。へしゃげた眼球は

無様な肉片だった。顔面にはガラスの破片が大小いたるところにめいり
こんでいる。めぼしいものを取り除いてもまだかなりが残っているらしい。

鼻骨は折れてひん曲がり右目から額に切り傷。右目から鼻上唇にかけてひどい裂傷。
60針根元病院で縫合された。何とかつながるだろうと件の眼科医は言っていた。
なんとか?上唇は完全に裂けていたのだ。

「これから抜糸した後もかなりのガラス片が膿とともに出てきますから
こまめに毎日取り除いていきましょう」
「どのくらいで完治しますか?」
「ま、努力しだいですが3ヶ月はかかると思います」
「今月末に大事な国際部の集会があるんですが」
「リハビリしだいで早ければ通院できるかもしれませんが」

『3ヶ月も入院できるか。国際部の集会まであと2週間!やるぞ!』

それからの毎日は題目三昧になった。いつ全盲になってもいいように、
方便品と寿量品(長行も)を丸暗記するのだ。時間があればとにかく題目。
病院の屋上で毎日朝から晩まで唱題し続けた。看護婦さんが、

「松林さんはいつ来てもいませんね」
「ええ、リハビリのためにあちこち歩き回ってます」
「この間眠ってると思ったら奥さんだったわよ」

このころ実はつわりがきつかったのだ。気疲れとつわりで
眠くてしょうがなかったそうだ。お前ももう参加してたんだよな。
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