探求者たちの苦悩
「井上さん。通勤は、車ですか。歩きですか」
「じ、自転車……」
おずおずと答える途中、ぐ~ッと雷のような音がしてきた。
発生源は、腹の虫っぽい。
「こ、これは生理現象というか、なりゆき、いや、当然の結果……空耳の類とか、なんというか!」
顔を真っ赤にして弁明する彼女に、くすりと笑って答えを返す。
「どこかで軽く食べていきます? 奢りますよ」
「えッ、それは……」
「そんな遠慮せずに。この時間じゃ、大したものご馳走できませんけど」
じゃれ合うようなやりとりを冷ややかな視線で眺める。
いつもながら手の早いことだ。
誰にでも愛想を振りまいて、媚びるのがあの女の悪癖だ。
さっさと取り入ろうっていう魂胆かしら。
ああいうのを虚しい努力って言うんだわ。
軽く鼻であしらうも、内心はムカムカしている。
あんな上玉が入ってくるなら、もう少し待てばよかったかな。
見るからに純朴そうな坊やだし。
ちょっと優しくして誘ったら、尻尾を振ってついてくるに違いない。