青春に、寄り道中。



昇降口の外の屋根のギリギリのところまで来ると、高瀬くんはわたしから手を離して、紺の大きな傘を開いた。



「傘、ないんでしょ」

「え、なんで……」

「だってさっき、教室で若菜と話してたの聞いた」

「でも、悪いよ」

「いいから。行こう」



そんな高瀬くんの言葉にそれ以上なにも言うことができなくなって、わたしは小さくうなずいてから傘の中に入った。

わたしの隣にもちろん高瀬くんも入って、わたしたちの距離はもう1センチほどしかない。
だからか、胸の鼓動が速くなる。
走ったあとみたいにドキドキして……落ち着かないよ。



歩き始めた高瀬くんの隣をわたしもついて行く。

こういうときってなにを話せばいいの?
ふたりきりになると、話題が見つからないよ。



「寒くなったね……」



必死に探して見つけた言葉は、そんなどうでもいいことだった。
だけど高瀬くんは少し微笑んで「そうだね」と返してくれた。


< 148 / 350 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop