青春に、寄り道中。
すると高瀬くんはしゃがんで、落ちていた白い貝殻を使って地面になにか書き始めた。
「初めて会ったとき、『俺の名前はこうやって書くんだ』って、地面にこうしたの覚えてる?」
「……そうだったっけ」
「うん。そうしたら吉井さん、なんて言ったと思う?」
高瀬くんは小学生みたいにいたずらっぽく笑って、そう聞いてきた。
だけど、どうしても思い出せなかったわたしは、首を横に振った。
「『あっ、ソウちゃんと同じ漢字!』って」
その言葉に、「あ!」とあのときのことを思い出した。
小学生のときにハマっていたアイドルのグループにいた、浜中蒼一(はまなかそういち)くん。
彼はメンバーから「ソウちゃん」って呼ばれていたんだ。
だから高瀬くんが砂浜に書いた“蒼”という漢字を見て、高瀬くんのことをそう呼んだような気がする……。