青春に、寄り道中。
「思い出した? 吉井さんは俺の名前の読み方も聞かないで『ソウちゃん』って呼ぶようになったんだよ」
「あはは……ごめん」
「べつにいいけどね」
そう言って笑う彼を見て、記憶の中に残るソウちゃんのいたずらっぽい笑顔を思い出した。
あ。あのころにもどったみたい。
……なんて、ふと思った。
高瀬くんを見るとなつかしい感覚がしたのは、その変わってない笑顔だったんだね。
というか、もう「吉井さん」に呼び方がもどってる……。
でもいまはもうこれで慣れちゃったし、こっちのほうがいいかな。
あのときは慣れていたから、高瀬くんのことを意識し始めても、名前で呼ばれるのは当たり前だったから平気だった。
でもいま呼ばれたら……いちいちドキドキして、心臓がもたないと思う。
――初恋も、いまの恋も相手は同じ人。
あのときもいまも、どうやら気持ちは伝えられそうにもないけれど。