青春に、寄り道中。



「思い出した? 吉井さんは俺の名前の読み方も聞かないで『ソウちゃん』って呼ぶようになったんだよ」

「あはは……ごめん」

「べつにいいけどね」



そう言って笑う彼を見て、記憶の中に残るソウちゃんのいたずらっぽい笑顔を思い出した。


あ。あのころにもどったみたい。
……なんて、ふと思った。


高瀬くんを見るとなつかしい感覚がしたのは、その変わってない笑顔だったんだね。



というか、もう「吉井さん」に呼び方がもどってる……。

でもいまはもうこれで慣れちゃったし、こっちのほうがいいかな。


あのときは慣れていたから、高瀬くんのことを意識し始めても、名前で呼ばれるのは当たり前だったから平気だった。

でもいま呼ばれたら……いちいちドキドキして、心臓がもたないと思う。



――初恋も、いまの恋も相手は同じ人。


あのときもいまも、どうやら気持ちは伝えられそうにもないけれど。


< 232 / 350 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop