Ri.Night Ⅱ
『───凛音?』
「……え?あ、何?」
電話口から聞こえた貴兄の声にビクッと体が強張って、妙な焦りがあたしを襲う。
『待たせてごめんな』
すまなさそうに謝る貴兄の声はさっきと違っていつもの優しい声で。
それはまるで今の出来事が幻だったかのようだった。
だけど、あれは幻なんかじゃない。
だって、幻だって言えないぐらい胸が苦しいから。
「う、ううん、大丈夫。ちょっとビックリしたけど。誰かと会ったの?」
『敵対してる奴等に会った』
「……っ」
……馬鹿だ、あたし。
何で余計な事を聞いてしまったんだろう。
貴兄の口からハッキリと聞きたくなんてないのに。
鳳皇と敵対しているなんて。
「大丈夫、なの……?」
これ以上聞いては駄目だと頭では理解しているのに、口が勝手に動いてしまう。
『あぁ。だけどお前と一緒にいる所を見られたらマズイ』
……マズイ?
なん、で?
十夜達があたしに“何か”すると思ってるの?
「……っ」
何もしないよ。
十夜達は何もしない。
あたしに何もしない。
そんな人達じゃない。
他の族とは違う。
卑怯なマネなんてしないよ。
みんな優しい。
凄く優しいよ。
だから、何もしない。
あたしに、何もしないよ。
そう言えない感情が心の中で渦巻いて。
頬に一筋、涙が伝った。