シンデレラタイム


あの日。


あれは何年前かな。



千花ちゃんと柊大、そして母親父親との5人で1度海に出かけた。



それが家族で出かけた最後の場所。




楽しかったとかは覚えていない。



その日に何があったとか、自分の感情だけでなく起こった出来事も、あたしはそこだけの記憶をごっそり抜き取られたように、思い出すことが出来ない。




ただその日が原因で海がトラウマだということは分かってる。





足に当たる波の感じとか。潮風の匂いとか。



あたしにとって良いものではなかった。





千花ちゃんの泣いてる顔が、柊大の悲しんだ顔がフラッシュバックするように頭の中に流れ込んでくる。



それと海と何が関係しているのかは、記憶が途切れたあたしには分からないけど。





月日が経って、おじさんと来たこともあったけど海だけはやっぱりどうも受け付けないものがあったから。




どうしても苦手なものだった。



だからずっと避けてきた場所だったし、来ようとも思わなかった。




もしかしたら、このまま一生今の状態のままでいようって甘えていたのかもしれないな、あたしは。






辛いものを楽しい記憶で塗り替えるのって、すごく時間のかかることで。



でも大事なことだよね。



おじさんも千花ちゃんも柊大も、あたしを気遣ってくれていたのかもしれないけど。




それじゃあ、ダメなのかな。



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