シンデレラタイム


その後、またトラックの荷台に乗り、来た道を戻る。行きと変わらず、緑の色は深くて風が吹いていて。新鮮な空気も何も変わらなくて。



ただ圧倒的に違うのは、帰りたくないってことと、榎本さんへの気持ちだと思う。




恩恵とか尊敬とか、そんな大層なものなのか分からないけど。



確かなのは、忘れないでほしいっていう願望と、会えて良かったという感謝。



けどそれには全部ありがとうの中に切なさが含まれていて。




もう会えないと思う。


それを口にしたら現実味を帯びて悲しくなるから言わないけど。



初めましてから一日も経ってないのに、こんな気持ちになるなんて。もうすぐお別れなのに。



あたし達は忘れちゃ嫌だと騒ぐくらい子どもじゃないけど、でも会えて嬉しかったと言えるほど大人じゃない。




行きにバスから降りた所で本当のサヨナラをする。



榎本さんを前に4人並んで、今日のことをバーっと思い出すと、大変だと思いながら楽しんでた。




「時間が巻き戻ればいいのに。」


隣から聞こえたその呟きと、頭上からの声。




「そりゃ人生楽しくねぇだろ?手ェかかったんだ、忘れねぇよガキ共。」



ニッと笑いながら言ってくる榎本さんを見て、自然と口角が上がる。


相変わらず口は悪いけど、それが嬉しかった。


いい人だなぁ。



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