麗雪神話~青銀の王国~
セレスは少し表情を険しくした。

「少なくともわが国では、あいさつで口づけなどしないよ。だがなぜそんなことを聞く? まさか誰かに―――」

「違います。ただちょっと、聞いてみたかっただけよ、気にしないで」

慌てて否定したところが、うさんくさかったのかも知れない。

セレスはさらに表情を険しくすると、不意に距離を詰め、セレイアの額に口づけを落とした。

「…ひゃあ!!」

驚いて変な声が出た。かっと頬に熱がのぼる。

「な、何するのよ!」

「これは挨拶なんかじゃない。
好きだからしたキスだ。それを、忘れないでくれ」

「せ、セレス……」

「最終試練も近い。滋養のあるものを食べて、体を大事にするように。そしてまた元気な姿を見せてくれ。それでは、私はもう行こう」

セレスはそう言って、風のように去っていった。

面と向かって好きだなんて言われても、とまどってしまう。

そんなことを言われても、誰かと思いが通じ合うことなど、ありえないのに。

自分がまた誰かを好きになることが、ありえないから。

口づけされた額をおさえて、セレイアはしばらくその場に立ち尽くしていた。
< 132 / 172 >

この作品をシェア

pagetop