麗雪神話~青銀の王国~
「あの娘の心を手にするのは、並大抵のことじゃありませんよ。
あの子は婚約者を喪って以来、ずっと心を閉ざしている。誰にでも優しくできる娘だから、一見誰も気が付きませんけれど。彼女は自ら未来を閉ざすことで、自分を幸せから遠ざけることで、過去にしがみつき、自分を守っているのです」

『ヴァルクスが……いないのに、幸せになんてなれない。
なってはいけないのよ』

先程のセレイアの台詞が脳裏に蘇る。

きっとハルキュオネの言う通りなのだろう。

だが、ならば、どうすればいいというのだ。

どうすれば、セレイアの頑なな心を開けるというのだろう。

「でも、あなた様は神なのでしょう?
神ならば、そう簡単に、諦めてしまってよろしいのかしら。
いずれあなたは天上界にお帰りになる。
その日まで、わずかな間でも、あの娘を幸せにしてやってはいただけませんか」

「俺が……ですか」

「ええ」

大巫女はディセルの気持ちを知ったうえで、励ましてくれているのだとわかった。

―自分が、彼女を、幸せにする。

そんなこと、果たしてできるのだろうか。

「大丈夫、真心は、ちゃんと人に伝わるものですから」

そう言い残して、大巫女は去っていった。

ディセルは一人、考え込んだ。

そして自分にもできることがあることに気付いた。

(ありのままの、俺の、素直な気持ちを伝える……)

その勇気を、出せるだろうか。

ディセルにはまだ、わからなかった。
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