麗雪神話~青銀の王国~
『スノーティアス、婚礼の衣装は何色がいいかしら』

婚礼を控えた姉、水の神ディーネリアは約500歳、自分より200歳ほど上だ。

温厚な性格で、人間を愛し、地上に水の恵みをもたらし続ける神である。海の青の長い髪、水色の瞳の持ち主で、身内びいきを差し引いても、たいへんに美しい。

雷の神サンディオスとは、育界時代からの恋仲だ。何百年にも渡る交際を経て、やっと結ばれようとしている。

『…姉上、俺に訊かれても困ります。こういうことは、レインスの方が詳しいかと。お~い、レインス!』

スノーティアスが呼びかけると、ふわりと衣を翻して、雨の神レインスが現れた。

『やあ、兄上、姉上。
婚礼の衣装? 人間界での今の流行は白ですよ。こういうふうに、レースをあしらったものが人気で……』

『まあ、そうなの? あなたの放浪癖も、こういう時は助かるわ』

レインスは、気まぐれで、目を離すとすぐに人間界に降りて行ってしまう問題児なのである。だから人間界の実情については、誰よりも詳しい。

『スノーティアス! サラマスを見なかった?』

不意に一陣の風が吹いたかと思うと、シルフェことシルフェードが目の前に現れた。

『見ていないよシルフェ』

『おっかしいな。僕、あちこち探したんだけどいなくって。ここだと思ったんだけどな』

彼女は、一人称に“僕”を使う時は、性別が変化し、男になっている。

風の神は皆、性別を自由に変化させる特殊能力を持つのだ。

シルフェードとスノーティアスは生まれた時からの婚約者だが、シルフェードがサラマスを一途に想い続けていることを知らぬ者はいない。ゆえに、婚約などあってないようなものだった。それについて、スノーティアスはなんの感慨もおぼえずにきた。

シルフェを可愛い妹のように思うことこそあれ、恋心を抱くことは無かったのだ。
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