麗雪神話~青銀の王国~
ディセルは思い出す。

穏やかに、紡がれていく日々を。

人間界を、神々全員で、そっと見守る日々を。

届く人々の祈り。

そして、ひときわ強い祈りを宿す、トリステアの姫巫女セリーンとの出会いを。

夢でスノーティアス本人と会えるほどの力を持った姫巫女は、そうそう生まれるものではない。セリーンは類稀なる力の持ち主だった。

『あなたが、スノーティアス様でいらっしゃいますね』

ひざを折り、首を垂れるその姿は、人間であると言うのにとても美しかった。

顔を上げるよう言うと、まっすぐに彼の瞳をみつめてきた。

強い意思を感じた。

彼女に何度、予言やお告げを授けたか知れない。

自分はそう、確か、彼女に大切なことを頼んだ―――。

(何を―――?)

思い出せない。

旅装に身を包んだセリーン。

腕には生まれたばかりの赤子を抱いている。

彼女と、彼女が愛した人との間の子だ。

『この子セレイアは、この国に置いて行きます。
この子はきっと…世界にとっての、あなた様にとっての、“希望”となりますわ』

『セリーン。……頼みましたよ』

そうしてセリーンは、赤子を孤児院に託し、旅立ったのだ。

自分の頼みを聞いて―――。
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