麗雪神話~青銀の王国~
「…ディセル逃げて!」

第二撃、第三撃が、青プミールをうまく操れないディセルを襲う。今のところかわせているが、セレスならためらいなく、彼を殺すだろう。

「でも! セレイア! 君を置いていけない!」

窓からどんどん引き離されながら、ディセルが叫ぶ。

セレイアだってこんなところにいたくはない。

けれど、ディセルの命の方が、何倍も何倍も大切だった。

だからセレイアは、笑顔を見せた。

かなり無理した、悲しい笑顔になってしまったけれども。

「私は大丈夫! 必ず、帰るから。今は逃げて…!」

「くそっ…必ず、また、来るから!」

ディセルが手綱を外に向けた。

「逃がすと思うか!」

「セレス、追ってはなりません」

セレイアは姫巫女として培った威厳ある声を出して、セレスを止めた。

「彼は邪の者ではない。
聖なる気質を備えた、ラピストリ最終候補の言うことに、まちがいがあると思いますか」

言外に、言うことを聞けと圧力をかけたつもりだ。

この国でラピストリ最終候補は超重要人物。王族で騎士団長のセレスに、勝るとも劣らぬもののはずだと思った。

案の定、セレスは逡巡し、その間にディセルは遠くはなれていった。

(大丈夫、ディセルは顔を見られていない。
きっとまたチャンスはあるわ)

そう自分に言い聞かせても、セレイアは必死で涙をこらえていた。

これで警備が厳重になる…本当に、ディセルのもとに、帰れるだろうか。
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