愛ニ狂ッタ人
第8章 彼女side
私を強く抱きしめる彼は、小刻みに震えていた。
最初は突然の出来事で、寝起きの私の脳はついていけなかったけど。
彼の震えに気がついて、私は恐る恐る、彼の背中へと手をまわした。
何も言っていないような、静かな空間の中。
私の耳にだけ、彼の消えそうな呟きが聞こえていた。
「独りに、しないで―――…」
何故彼がそんなことを呟くのか、わからなかった。
私の知る彼は、いつでも誰かに囲まれていたから。
いつも、笑顔を浮かべていたから。
私は、知らない。
彼が何を抱え、何に怯えているのか。
独り、の本当の意味も、私は知らない。
でも私は、この時しっかり誓う。
彼を、独りになんてさせない。
私が彼を、支えたい―――と。