愛ニ狂ッタ人
彼の小さな溜息が聞こえた。
「別に何も話していませんよ。
ただ、お母様がもう少しで帰ると言ったのです。
思ったより早かったのですね、お母様」
お母様、か。
やっぱり、名家の御曹司なんだな。
口調が凄く、凛々しく思えた。
「仕事を早めに終わらせてきたのよ。
あなたもどこかに出掛けたと聞いたし、何よりあの人が心配だったからね」
「そうなんですか…」
「こんな夜遅くに、どこへ出掛けたの?」
「…………」
「…まぁ、良いわ。
何をしても良いから、家の名前を汚さないでちょうだいね。
汚さなければ、何をしても良いから」
「…わかりました」
「じゃ、早めに寝るのよ。
明日も学校でしょう?
きちんと勉学に励むこと、良いわね」
「はい」
バタンッと扉が閉まる音がした。
女の人が、出て行ったのだろう。
私は、母子(おやこ)の話の内容に、違和感を覚えた。