愛ニ狂ッタ人
すでにこの世に存在しない、滝田愛佳に心の中でお礼を言っていると。
…階下から、嫌な音がした。
あれは…メイドの、叫び声だ…。
普段、静かな家だ。
叫び声は勿論、話し声さえも聞こえない家。
このままでは、隣で眠る雪愛が、起きてしまう。
僕はゆっくりと、雪愛の手から自分の手を離した。
雪愛が気が付かないで眠っているのを確認し、僕はそっと、部屋を出て階下へ向かった。
「……何しているんだよ」
思ったより低くなってしまった声で問いかけると、叫んだ声の主であるメイドが、涙を浮かべた目で僕を見た。
「も、申し訳ありません…ぼっちゃま…」
「雪愛が今来ていること、知っているでしょ?」
「そ、そうでございます…。
本当に、申し訳ありませんでした」
僕は溜息をつき、今までと同じ口調で問いかけた。
「原因は何?
…やっぱり、お父様なの?」