愛ニ狂ッタ人








今は雪愛がいるから、僕も幸せだし、生きているのも嬉しいけど。

幼い頃、雪愛に出会う以前は、辛くてたまらなかった。




部屋の中、布団にくるまっていても聞こえる、父の叫び声。

監禁され本当に精神を病み、狂ってしまった父は、夜な夜な叫ぶようになった。

音なんて一切聞こえない静かな夜に、切り裂くような父の声。

当時の僕は耐えきれなくて、布団の中で耳を塞いでいた。





母は、父を自分と僕以外、会わせようとしなかった。

だから、母が仕事でいない夜は、僕が父への料理を運んだ。

メイドが間違って会ってしまい、怪我を負ったら。

僕は夜中でも呼びだされ、父に静かにするよう言った。

…まるで、夜行性の猛獣を調教している気分だった。





家は、居心地悪かった。

母が家にいるときは、父に会わずに済んだ。

だけど、母が愛を注ぐのは、父だけ。

息子であり、いずれ家を継ぐ僕は、相手にされなかった。





当時の僕は、それが辛くて、寂しくてたまらなかった。

仕事から帰って早々地下室へまっしぐらの母を追いかけたこともある。

母に、父だけでなく、僕も愛されたかった。





しかし、母はやっぱり、何をしても、見るのは父だけだった。

自分だけ愛されていると実感した父も、自然と大人しくなった。

夜中に地下室へ僕が呼び出されたとしても、母はもうすぐ帰ると伝えれば、大人しくなった。

時々自分のプライドが邪魔をし、僕に出せと頼み込み、殴られることもあったけど。




やっぱり。

父も母を、愛しているのだ。

母からの愛に、答えているのだ……。









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