愛ニ狂ッタ人
私は彼の部屋から、出た。
扉を閉めて、気が付く。
静かな家だなぁ…。
まるで、誰もいないみたい。
そこまで考えると、少しだけ震えた。
嫌だ。
いなくならないで。
私の傍から、離れないで。
私は初めて、1人でこの家を歩いた。
いつも優しい彼に、手を引かれて歩いていたから。
彼の手のぬくもりに、私はいつも安心していた。
嬉しさと幸せしか感じなくて、笑顔で握り返したのを覚えている。
どこにいるの?
私の彼は、どこにいるの?
他の花の方が美しいからって、可愛いからって、離れて行かないでね。
私が一生、逃がさないから…。
2階には彼の部屋しかないから。
私は螺旋状になっている階段を、降りた。
階段を下りる音しかしない、静かな家だった。
彼は毎日こんな静かな空間で、過ごしているのだろうか?
ご両親は、彼をどう思っているのだろうか?