愛ニ狂ッタ人
「…馬鹿な子だね、ユキちゃんは」
「…て」
「ん?」
「放して!
今から私を、ここから解放して!」
翼のストラップのついたケイタイを、胸元で強く抱きしめる。
涙を流しながら稲生へ訴えると、ソイツはヘラヘラ笑った。
「馬鹿じゃねーの、本当に。
すぐに解放するなら、手錠なんてお高いモン買わねーよ。
手に入れるの苦労したんだから、ありがたく思え」
「思えるわけないでしょ!
彼に手錠を付けられるなら良いわ。
私と彼は、相思相愛の関係なのだから。
だけど、私とアンタは、相思相愛じゃない。
むしろ私は、アンタなんて大嫌いなのよ。
私が愛せるのは、彼だけ。
彼だけなのッ!!」
稲生は笑うのを止め、溜息をついた。
「忘れさせてやるよ、ユキちゃん。
アイツのことなんて忘れて、俺だけ見ろ」
ニヤッと笑った稲生は、私の顔を両手で押さえ、そのままキスしてきた。
手錠のはめられた手で、必死に稲生の胸元を叩くけど、効果はない。
やめて。
やめて。
…い……
「いやああああああああああああッ!!」