愛ニ狂ッタ人










その夜。

私の隣では、上半身裸の稲生が鼾(いびき)をかいて寝ている。




私も、上半身は何も着ていない。

だけど、薄っぺらい真っ白なタオルを巻き、前を隠していた。

そしてタオルに顔を埋め、稲生を起こさぬよう、声を殺して泣いていた。





自分で脱いだんじゃない。

私が脱ぐとしたら、彼の前だけだもの。




脱がされた。

脱がされた。

隣で呑気に眠る、コイツに―――。






逃げたい。

扉に鍵なんてついていないみたいだから、逃げてしまいたい。

だけど、それは不可能。

稲生の馬鹿なのか頭が良いのかわからない、その頭を、ぶん殴ってやりたい。





私のタオルを握る両手には、手錠。

両足には、部屋の中にある柱に繋がった、鎖付きの足枷。

体自体は動かすことは可能だけど、ここから1歩動くことは出来ない。




逃げたい。

逃げられない。

助けて。

助けてもらえない。




…精神が、崩壊してしまいそう。








< 157 / 234 >

この作品をシェア

pagetop