愛ニ狂ッタ人
その夜。
私の隣では、上半身裸の稲生が鼾(いびき)をかいて寝ている。
私も、上半身は何も着ていない。
だけど、薄っぺらい真っ白なタオルを巻き、前を隠していた。
そしてタオルに顔を埋め、稲生を起こさぬよう、声を殺して泣いていた。
自分で脱いだんじゃない。
私が脱ぐとしたら、彼の前だけだもの。
脱がされた。
脱がされた。
隣で呑気に眠る、コイツに―――。
逃げたい。
扉に鍵なんてついていないみたいだから、逃げてしまいたい。
だけど、それは不可能。
稲生の馬鹿なのか頭が良いのかわからない、その頭を、ぶん殴ってやりたい。
私のタオルを握る両手には、手錠。
両足には、部屋の中にある柱に繋がった、鎖付きの足枷。
体自体は動かすことは可能だけど、ここから1歩動くことは出来ない。
逃げたい。
逃げられない。
助けて。
助けてもらえない。
…精神が、崩壊してしまいそう。