愛ニ狂ッタ人
久しぶりに当たる太陽は、眩しかった。
彼と何度もデートで見た景色だった。
久しぶりに見る雲は、自由そうだった。
彼と屋上で雲を眺めながら、他愛もない話をした。
久しぶりに見る鳥は、可愛かった。
彼が色々な鳥を知っていて、物知りだなって感心した。
久しぶりに見る木々は、夏なので美しい緑色に輝いていた。
葉っぱが私の頭に乗り、彼が笑いながら取ってくれた。
あぁ、もう駄目だ。
やっぱり私には、彼しか愛せない。
彼との思い出ばかり、蘇ってしまうわ。
久しぶりの日光に眩暈を覚えながら、私は空を眺めていると。
隣で警察2人が、何やら書類を見ながら話していた。
「このアパートの持ち主は?」
「稲生冬樹、15歳です」
「親は?」
「稲生が5歳の時に病気で両方死んでいます。
その後は親戚に引き取られたそうですが、通り魔に殺害されました」
親戚が、通り魔に殺害された…。
本当にそれって、通り魔だったのかしら…?
何故か、
そんな疑問が湧いた。