愛ニ狂ッタ人
「うん、日直だから」
「偉いね雪愛ちゃんは。
でも早めに帰った方が良いよ。
女の子が夜遅くまで残っていると危ないからね」
「ありがとう。
だけど私、すぐには帰らないわ」
「どうして?
…もしかして、雪愛ちゃん王子のこと好きなの?」
この学校の実質的持ち主だ、という理由で、彼は学年や性別を問わずに“王子”と呼ばれていた。
学校がお城だとしたら、そのトップは王子だからって理由みたい。
その上彼は優しくかっこいいから。
誰しもが彼を王子と呼び、慕っていた。
まぁ、彼を狙う殆どの女子の目当てはわかっている。
彼の後ろに立つ、彼の両親の存在だ。
詳しいことは知らないけど、彼の両親は学校では勿論、社会的な地位も高い人のようだ。
そんな両親の一人息子である彼がいずれ、その家を背負う存在。
彼に取り巻く女子たちは殆ど、彼の両親の力を求めているのだ。
彼自身ではなく、彼の両親を女子は狙っているのだ。
ふう、と思わず溜息をついてしまう。
勿体ない。
彼自身も、とても素敵だと思うのに。
私は彼が好き。
だけど彼の両親目当てじゃない。
クラスメイトから初めて彼の両親の地位の高さを知った時、
「ふうん」
程度にしか思えなかったのだから。