愛ニ狂ッタ人
「わたしに何の用よ。
こんな夜遅くに呼びだして。
あなた、おうちの人心配しないの?」
「僕のことなら大丈夫」
僕はゆっくり、園田愛恵の髪を梳いた。
すると園田愛恵は、僕の手を掴んだ。
「あの噂は本当みたいね」
「噂?」
「ええ。
あなたのご両親が世間に隠している秘密のお話よ」
「…ご想像にお任せするよ、愛恵ちゃん?」
「気安く呼ばないでくれる?
わたしはお金目当てにあなたに近づく女じゃないの」
僕は掴まれた腕を、勢いよくぐるんっと回した。
同時に掴んでいた彼女の手も回り、僕は彼女の手首を握る形になった。
そしてそのまま、目を真っ直ぐ見つめながら、園田愛恵に向かって歩きだす。
彼女は驚いたように目を見開き、後ずさりをし始めた。
「なに、よ…」
「良いから…そのまま…下がって…」
彼女の耳元に口元を寄せ、囁くように話しかけると、園田愛恵は言う通り下がった。
そして、屋上の入り口へ、彼女の背中を押し付けた。