愛ニ狂ッタ人








そしてそのまま、抵抗する園田愛恵を、屋上の縁へと連れていく。

屋上に柵はあるものの、簡単に乗り越えられるほど低いものだ。

簡単に、園田愛恵を柵を乗り越えた縁へと連れて行けた。






「離してッ……!」

「キミも単純だよね。
何でキミを許せないと言った僕のこと、簡単に信じちゃうの?」

「信じてなんてっ…」

「信じていたよね?
僕が一口飲んだだけで、疑いもなく一気飲みしちゃって。
…お酒の一気飲みは駄目だって、習わなかった?」

「お酒っ…!?」






そう。

僕が園田愛恵に渡したのは、お酒。

グレープフルーツの味がした、フルーツのお酒ってこと。

ちなみに僕の缶は、未成年でも飲める、ちゃんとしたグレープフルーツジュース。

缶はお酒である、園田愛恵のと同じだけどね。

中を抜いたお酒の缶に、グレープフルーツジュースを注ぎ込んだだけ。







「屋上で、グレープフルーツ味のお酒を飲んで、酔っぱらっての自殺。
自殺じゃない…事故カナ?」

「アンタ……ッ!」

「言ったでしょ?
僕は雪愛を愛しているんだよ。
…もっとも、僕なりのやり方だけどね」






僕は、園田愛恵の襟元から、手を離した。

お酒を一気飲みした彼女の足はすでに千鳥足で、そのままどこにも掴まることなく、落ちていった。





否、堕ちていった。









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