愛ニ狂ッタ人
家へ着く頃には、心配事は僕の頭から抜けていた。
車が停まったことを確認し、僕は雪愛をお姫様抱っこした。
彼女は相変わらず、穏やかな寝息を立てながら、幼い少女のような寝顔を浮かべていた。
僕は雪愛を起こさぬよう、家へ向かった。
扉を開けてもらい、家へ入ると。
1人のメイドが、僕へ走り寄ってきた。
「ぼっちゃま!」
「静かに。…何の用?」
「し、失礼いたしました。
実は…幹太(かんた)様が……」
「…お母様は?」
「今はおりません…」
「何時頃に帰るの?」
「朝の6時だと…聞いております…」
まだ、時間がかなりある。
僕は静かに溜息をついた。
「わかった。
彼女を部屋で寝かせてくる。
その後、行くよ」
「お願いいたします…」
僕は再び溜息をつき、自室へ向かう階段を上がり始めた。