ダイコク
ヤカミヒメは、13歳くらいにまで成長した。ヤカミヒメは、まるで、ヤチホコに合わせるようにして、成長しはじめ、実際の年齢に関係なく、ヤチホコとならんだら、それはそれはよく似合うように思えた。。けれども、、あの時から、部屋に閉じ込められたまま、あの海辺にも行けずにいた。
ヤチホコもモリヒトも、知らなかった。
ヤカミヒメがヤチホコの父親に疎まれていることなど、全く思いもよらなかった。
ヤカミヒメだけがそれに気がついていて、とても傷ついていた。
ヤチホコを思うと、胸が痛い。痛いだけなら良い。いっそうのこと、剣で胸をついてしまおうかとさえ思う。体の奥に、何か熱いものがめばえた。
「胸が痛い」と言うと、いつも心配してくれたヤチホコ。恋しい思いが募る度に、、自分が賤しい女になったようで、嫌になった。
子どもの頃よりも、力が弱くなったように思う。ますます何もできなくなり、けれども、逆に、ますます世の中の事が分かるようになった、。
ウサギをウサギの姿を変えることもできなくなった。ウサギもまた、今ではこの世の者とは思えない、絶世の美女である。けれども、表には出ず、ヤカミヒメのたった一人の話し相手であり続けた。

「ヤチホコ」

ヤカミヒメは、呟いた。
ヤカミヒメには、分かっていた。
声にしてはならない。

自分が口を開くと、ろくなことにならないのだ。
ヤカミヒメがヤチホコに出会った日に、ヤカミヒメに仕えていた侍女は、あまり苦しまずに死んだ。恋人の裏切りを知らないままに、寝ている間に首を切られたからだ。
何も言わなくて良かった。
ヤカミヒメの心には、浅ましいあの男に対する憎しみが渦巻いたけれども、あの男の正体なぞ、知っていたところで、何の慰めになるだろう。。
男はしかし、調子に乗っていた。
女を知り、次には、次にはと、ヤカミヒメを、ヤカミヒメのことをも狙っていた。
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