ダイコク
イライラしていた。
産まれてこの方、イライラすることは山の数ほどあったが、これほど面白くないことはない。
アタリは、「面白くない女だ」と、吐き捨てた後、女人とソネミの方を振り返りもしなかった。
そして、、その一時間も後には、別の女人の寝所にいた。

こちらの女人は、一途だった。
アタリにしても、悪い気はしなかったのだ。アタリを見ると、いつも恥ずかしげに、儚げに目を背けた。
可愛いとも思っていた。
しかし、、しかしながら、この日は間が悪かった。。
アタリは、この女人が自分を受け入れるだろうと思い込んで、女人の寝所を訪れた。が、初めてそれを拒まれた。
そして、
「ややこができました。」と、聞かされた。
不意に、ヤチホコの母親のことが頭に思い浮かんだ。
自分の母親が不幸のどん底で喘いでいる時に、ヤチホコは両親に護られていた。
「お前は、」
「お前は馬鹿なことを。」
幸せになれるわけがなかろう。
婚姻など許されぬ身分の女だから、ただ、恋に身を焦がし、男で満たされれば不満もないであろうと、勝手に決め込んでいた。
「このような、ろくでもない男を受け入れて、子どもなど地獄の始まりだとは思わないのか。」
アタリは、焦れた、気が狂いそうになった。
女はどうやら、アタリが子どもを好まないと勘違いしたらしいが、アタリが言っていることは、少し違った。
子どもにとって、子どもにとって、この世は地獄だ。
ソネミについていった女は、えらく賢く見えた。
それと反対に、自分についてきた女も、父親を慕った母親も、ひどく愚かで、子どもに対して無責任に思え、嫌悪感が拭えなくなった。
アタリは、苦し紛れに、寝台に向けて剣を打ち付けた。
女は恐れたが、アタリを寝台に招き入れた。
鬱々としたものを抱えたまま、それでも、頭ではややこを抱えた女人をいたわらねばならないことは理解していて、女の横に寝転んだ。
しかし、、しかしだ。
馬鹿な女は、アタリがけして許せないことを寝所の中で囁いた。
それがなにだったのか、もう、2度と思い出すことはない。
とにもかくにも、アタリは、この世に生まれ落ちたことの方を恨んだ。
「殺してくれ」
「そんなややこは、産み落とさずに殺してくれ殺してくれ」
アタリは、本当に気がふれてしまった。
女は首を落とされ、アタリはその後、おかしな笑いかたをするようになった。



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