ダイコク
ソネミの縁談は、アタリにとって、衝撃的だった。
あの事があってからというもの、アタリは、女人を打ち捨てることにしか、捌け口をみつけられなくなった。この世で一番嫌なのは、生まれ落ちてしまったこと。
何故、何故、生まれる前に殺してくれなかったのか、。
兄弟達は皆、アタリの様子がおかしいことには気がついていたが、その原因が何なのか分からなかった。
アタリは、ソネミの想い人の存在にも耐えなければならなかった。
もう、何年かたった。だから、女人に対する思いは無いが、どうしても、自分を蔑んでいるように思えてならない。
何しろ、この女は上から目線で、偉そうにソネミを選んだのだ。自分を蔑んで。
女から選ぶなどと生意気な。
アタリはソネミに言った。
「お前の女人が、俺の名前を口にすることも俺のことを話すことも赦さん。あの生意気な女が永遠に俺のいる場所に踏み入れない約束で、お前があれを好きにすることに目をつぶる。」
ソネミは、応えなかった。黙って、自分の剣に手をかけた。だが、それだけだった。
アタリの心は、いびつに歪んでいた。
実は、ソネミは赦すことができた。
ソネミは、逃げずに自分に立ち向かおうとした。自分の中の毒が清められるようにも思えた。
アタリは、もう、正常に女人を愛でることはない。アタリは、もう、女人が憎くてならない。けれども、ソネミには、幸せになってほしい思いもあった。
同じように、母親を亡くし、護られる
こともなく、身を切られても手当てさえ受けれず、汚しても拭ってもらうこともなく、そんな惨めさを男気で振り払い、一緒に育ったのだ。

アタリの憎しみが誰にむかったのか。。
「母親に勝ち戦しか用意してもらったことが無いような連中に、何がわかる。。。」
こそこそと自分に隠れて、女人とよろしくやっている輩。
「俺よりも汚い連中だ。」
「こそこそしやがって」

アタリは、モリヒトが、時々ヤカミヒメに会っていることを知った。
そして、ヤチホコが浜辺で女人に会っていることを知った。
特にこの二人は赦せなかった。
切磋琢磨し、苦労して育った兄弟達をさしおいて、あの弱虫が国をさらおうとしている。
母親の身体で父親をたぶらかし、何の苦労もせずに護られている。
これまで、悔しい思いをしながらも、武芸にいそしんだ事だけが、アタリのプライドを支えていた。
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