ダイコク
ヤチホコは5歳。モリヒトは10歳。
ヤチホコに罪はない。でも、モリヒトは、何かあっても「子どもが分からずにしたこと」ですませてもらえない微妙な年頃になった。
そして、モリヒトは、少し困惑していた。今のこの状況が、少しこわくなってきた。
モリヒトの困惑をよそに、ヤチホコはモリヒトにじゃれつき、肩によじ登る。こちらの顔をのぞきこんで「エヘー」と笑う。モリヒトも、思わず笑ってヤチホコを胸に抱く。子犬のような瞳、白く整った中性的な顔立ちが本当にかわいい。癒される。それに、一番信頼している。5歳の弟に向かって言うことではないのだろうが、ヤチホコは本当に信頼できる。時折意地の悪いことを言って自分を困らせる兄者たちとは違い、いつも、自分を支えてくれた。それに、モリヒトが自分を支えるのが当たり前と思って生意気な他の弟たちとも違った。
モリヒトを困惑させているのは、ヤチホコと同じようにモリヒトにじゃれつくもう一人のちびっこだった。
モリヒトがヤチホコを遊びにつれてきた浜辺で、ヤチホコが見つけてしまったオトモダチ。白い光沢のある豪奢な服にくるまれ、まるでヤチホコのように整った顔立ちだが、こちらは時折イタズラで大人びた表情を見せる女の子。
ヤチホコが兄者を自慢するのを見て、すっかりこちらのことを信頼してくれた様子だが、、後で何かややこしいことになりはしないか。。
ヤチホコと同じようにモリヒトにじゃれつく様を見ると、とても恐れ多い方にも思えず、ついつい弟たちと同じように抱き上げ、あやしてやっていたが、ついさっき、気がついてしまった。この子は、この方は、、。
そもそも、どこかで見た顔だとは思った。 いつも見るその方は人形のように動かず、物憂げに静かにたたずんでいる。化粧と服装に守られ、大人のようでもあり、子どものようでもあり、それこそ、何か自分や兄弟たちとは違って、どこか人智を越えたものであった。

ヤカミヒメ。

そう言われてみると、抱き上げたときにも体重がないくらいふわふわと綿毛でもすくいあげたようだ。どこかつかみどころがない。
ヒメは生まれたときから先を見通す力をお持ちとか。もう成人した兄者たちの中には、出世欲だとか権力欲だとか、そんなものから、ヤカミヒメを手にいれたいと公言する者もあったが、皆、結局のところヒメが何者とはよくわからなかったし、「先を見通す」というのもよく分からなかった。
厄介なことになりはしないか。
自分もヤチホコも、何の権力欲も持たないが、時折兄者たちに邪魔にされる。

ヤカミヒメの瞳は、一緒にすごしてみると、ヤチホコに似ていた。
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