ダイコク
ウサギは、生き延びた。
アタリは、しばらく、何が起きたのか分からなかった。
矢は、矢は、確かに真っ直ぐに跳び、ウサギは、そこで足がすくんで動けずにいた。
アタリは、自分が放った矢がどうなったのか、ウサギがうずくまっていた場所まで歩み寄る。
足元には、矢が落ちていた。
矢が、二本落ちていた。
一方の矢は、矢じりの少し手前で割れていた。
もう一方の矢は、、折れた矢の少し向こうに傷のない姿で転がっていた。
アタリは、アタリは、何があったのか理解して、地団駄踏み、二本の矢をまとめてへし折った。
甘い香りがしたように思えた。
アタリには、誰がウサギを助けたのか分かった。
(ヤチホコの奴め)
アタリの心に憎しみが渦巻いた。
ズタズタにしてくれようか。毛皮を剥がすなどと悠長なことでは足りない。
傷だらけにして海に投げ込んでやる。

アタリは、折角の狩を邪魔されて、本当に腹をたてた。
何一つ真面目に取り組まないくせに、女のように父親からも可愛がられ、、
その上こちらのやること為すこと邪魔立てしやがって。

草むらが揺れた気がした。甘い甘い、母の香りが漂う。
アタリは、静かに手を動かし、十本の矢を一度に手に構えた。
そして、、次から次へと草むらに放つ。
ヤチホコは、草むらから転げ出た。
兄者の矢の先には毒が塗ってある。

アタリは、剣を抜いた。
「卑怯者め」
憎しみはあったが、伐りたい気持ちは抑えた。怒りのやり場がなかった。ヒラヒラと、かわすヤチホコに何度も、何度も、、剣を降り下ろした。そうして、怒りを殺した。
隙を突けば殺せたかもしれないが、。
アタリだって、兄弟を伐ることは、まだできなかった。
アタリは、いらいらとヤチホコに剣を突き付けて、低い声ではっきりと言った。
「ヤチホコ、この次は真剣勝負じゃ。」
向かって来ない弟に、ますます腹が立った。
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