ダイコク
ヤチホコが逃げたので、アタリは、追いかけた。途中で見失ったので、兄弟たちのところへ戻ることにした。
アタリは、声もかけなかったが、途中で、慌てたように贈り物の品をかついで走るモリヒトを見かけた。
アタリは、嫌悪感を覚えた。

アタリは、鬱々とした想いを抱えたまま兄弟のところに戻るとソネミを見つけてホッとした。
そして、ソネミに言った。

「ソネミ、俺は、因幡のヤカミヒメをもらい受けに行く。」
ソネミは、複雑な顔をした。
「兄者、あれはしがらみが多い女だ。
あの女人の血を見たいのか、それとも、女陰と国とを手に入れたいのか。」
ソネミは、アタリの性癖を知っていた。なぶりものにして殺してしまいたいなら、後腐れ無さそうな女を探してくれというわけだ。
アタリは、少し考えてから答えた。。
「父は、ヤカミヒメを護っておられる。何か意味があってのこと。モリヒトなどより、私が父親の意志を継ぎたい。」
ソネミは、考えた。
(モリヒトよ。お前がググズしておるから悪いのだ。)
(熟れた女だ。兄者にでも、抱かれるうちに心を開きはしないだろうか。)

父親がこの家の中で治めている物が2つある。一つは、自分たち兄弟で、もう一つは、女人達だ。

ソネミもアタリも、女人達には護られずに育ち、父親がそれをどのように支配しているのか、今一つ理解し難いところがある。
ソネミは女人を手に入れて、それが分かるようになった気でいたが、事はそれほど単純でもなかった。
ソネミは、ヤチホコが、いつも母親から傷の手当てを受けていたことを思い出す。

ソネミの妻は、やや子のことも、アタリとソネミの約束のこともあり、すっかり不便を強いられていた。
それでも、夫の愛情にくるまれて、今はまだ幸せにすごしているが、、
子どもが少し大きくなった頃のことが心配だった。
女人は寝室に隠すこともできよう。
しかしながら、男の子だったら?
隠し通して無事に育つのだろうか??
護ってやったとしても、、
自分たちだって、小さな兄弟達を可愛がったりはしてこなかった。

本当に、アタリが身を固めようと考えているなら、誉められたことではなかろうか。
相手というのが、少しややこしくも思えるが、確かにモリヒトを見ていてもいらいらする。
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