ダイコク
ヤチホコは、初めてヤカミヒメの御殿場に足を踏み入れた。
ヤチホコは、誰にも見られずにヤカミヒメの寝所まで、探し当ててしまった。ヤチホコは、ヤカミヒメの香りを覚えていたのだ。

何とまあ無防備な御殿場だ。。
ヤチホコは、ヤカミヒメの寝所を盗み見た。
(こんな壁も門もあってないようなものだろう。護衛殿も、いない方が食い物が減らなくて良いんじゃないか??)
ヤチホコは、自分の兄弟達の方が特別なのだということに、まだ気がついていなかった。
ヤチホコは、ウサギのことを思い出した。女人が男に護られずに生きて行くということは、どういうことなのか。
ヤチホコは、ヤカミヒメもまた、自分の
母親のように護られてすごしているのだと思い込んでいた。ヤカミヒメは、ヤカミヒメは、大丈夫なのだろうか。。
不意に、風が違う匂いを運んできた。
ヤチホコは、身構える。

そして、、ヤチホコは、目を疑った。
ヤカミヒメの部屋から出てきたのは、ソネミだった。
ソネミは、ヤチホコを見ると、呟いた。
「門も壁も、あってないようなものだな。護衛殿も、もう何人か斬ってやった方が目が覚めるのではないか??」
「なあ、ヤチホコ。」
ソネミは、自分のうちの中にいるかのように、堂々としていた。
訳がわからない。
「心配するな。今夜はまだ、アタリは来ない。あの小娘、なかなかうまく隠れている。」ソネミは、笑った。
「兄者の使いで参った。今夜は、女人は見つからなかったことにしておく。」
ヤチホコは、剣の柄に手をかけた。ソネミが向かって来そうに見えたからではない。
ヤチホコは、ヤカミヒメが、自分の後ろに隠れていることに気がついたのだ。。
もしも、ソネミに仕掛けられたら、、ソネミが相手では、、適当にやってどうにかなるものではない。
「女人のことなど、男が女々しくグズグズしてるから、ややこしくなるのだ。」
ソネミは、少々わくわくしながら、剣の柄に手をかける。
いつものヤチホコならば、かわして逃げるばかりだっただろう。けれども、今日は、後ろに、ヤカミヒメがいる。
後ろに下がることはできない。。
ソネミは、ニヤリと笑うと、ヤチホコの剣をかわして蹴り倒した。ヤチホコは、2、3歩下がり、起き上がりざまにソネミの足を払ってひっくり返し、鼻先に剣を突き付けようとしたが、その剣を弾かれた。まともに手合わせしたのも久方ぶりだが、ソネミに剣を弾かれたのは初めてだった。
「モリヒトがややこしくしているのだと思っておったら、ちびっこのちちくりあいであったか。」
ソネミは、、アホらしくてやってられないという顔をした。
「ヤチホコ。言っておくが、俺はお前達のようにこそこそした奴が大嫌いだ。面倒な話が多くて、あまりのりきではないが、、アタリの敵にはならない。」
「普段から、もっと積極的に兄者達に向かって行くべきだったな。腕を磨くことを怠ったことを、後悔するがよい。」
ヤチホコは、ヤチホコもまた、ソネミの剣をかわして、ソネミを蹴り倒そうとしたが、逃げられた。 
ソネミは、これ以上二人に関わる気になれなかった。
ソネミは、アタリに胸をかりて強くなった。だから、ヤチホコが可愛くないアタリの気持ちはよくわかる。
ソネミは、そのまま立ち去って行った。

すっかりソネミの気配が消えたあと、ヤチホコは、初めて後ろを振り返った。
努めて平静を装うとしたが、難しかった。ヤチホコの目に涙が滲んだ。
「久方ぶりです。」
ヤカミヒメは、すっかり大人になっていた。その、心細げな表情に、申し訳ない気持ちと、それから、、不思議な疼きを覚えて、ヤチホコは、ヤカミヒメをだきよせた。
抱き寄せて、滲んだ涙がこぼれないように、少し上を向いた。
抱き寄せられたヤカミヒメは、身体をかたくした。だから、ヤチホコは、抱き寄せて良かったのかと、少しだけ不安になった。
「逃げ回っておられたのですか?このように、ずっと。」
ヤチホコは、ヒメに尋ねた。
ヒメは、ホンの少し後ずさった。
「ヤチホコ様」
「ヤカミヒメは、誰のところにも嫁ぎませぬ」
ヤカミヒメは、えらく混乱して、ほろほろと涙を流した。
「ヤカミヒメは、ヤチホコ様に嫁ぎとうございます。」
ヤカミヒメは、悲痛な表情を浮かべたまま、ヤチホコの腕の中に崩れ落ちた。
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