ダイコク
1日だけ日付を戻す。
ソネミは、ヤカミヒメの御殿場を後にしてから、兄者が心配になって、兄弟たちのところに戻った。
案の定、兄弟たちは大騒ぎしていた。怒る者、やじる者、笑う者、
無抵抗に近かった。
何度も何度も何度も何度も。。足下に剣を投げ与えられたが、それを手にとろうとする度、起き上がろうとする度、蹴り倒され、踏みつけられ、剣先を目玉に突きつけられた。
アタリに迎合する者は多かった。
モリヒトが、努力せず逃げ回って来たのが悪い。歯を食い縛り、努力してきた者ほど、アタリがモリヒトに与える制裁が正しいと考えた。
父親は、父親は、ジリジリと思うところがあったが、口出しはしなかった。
アタリが節度を守っている限り、口出しはしない覚悟だった。
ソネミは、知らないふりをした。
(今は、今は、モリヒトにでも気をとられていただいた方が平和であろう。)
ヤカミヒメはヤチホコにさらわれたなどと、口が避けても言えない。
気がすむまで発散していただいた方が良い。、、ヤチホコとヤカミヒメの話は、おいおい知られるであろうが、少しでも力をそがれてからの方が良いであろう。
(逃げ回ってきたから悪いのだ。)ソネミは、モリヒトが袋叩きにあうのを、見ないふりをしてその場を立ち去った。

スクナヒメは、ヤチホコを探していた。
モリヒトにも尋ねようとして、モリヒトが何をされているのか、目の当たりにしてしまった。
スクナヒメは、気を失いそうになった。
ヤチホコは、ヤチホコは何故戻らない。モリヒトが袋叩きにあっていることと、 何か関係が有るのやら無いのやら。。
スクナヒメはモリヒトの代わりに打たれてやりたいと切に願ったが、、父親はそれに気がついて止めた。
「手出ししてはならない。ここで手出ししては、モリヒトはますます兄者に嫌われよう。これは、ただの手合わせです。貴方が気にやむことではない。」
スクナヒメは、いつも夫に口ごたえひとつしなかった。けれども、いつもいつも。瞳は、夫に懇願していた。
(面倒なことだ。)と、父親は心の中で呟く。そもそも、いつまでもいつまでも、父親に母親に助けられているわけにもまいるまい。モリヒトもヤチホコも、自分の方が父親になってしまったときには、いったいどうするのか??  弱き者と烙印をおされ、可哀想だとか惨めだとか認めていただいて、人の情けにすがりつき、なんの欲も持たずに生きていくなど。、女人ならいざ知らず、男にはたえられまい。ここで死んだ方がましというものだ。
しかし、しかしだ。
父親は、心の中で舌なめずりする。
上目遣いにこちらを見上げ、心細げに瞳に涙を滲ませて、何かを必死に訴えている。
(可愛らしいことだ。)
父親は、スクナヒメを抱き寄せた。
(こちらの機嫌もとっておかねばならぬ。)
父親は、モリヒトを呼びに行かせた。
父親自身、少しばかり、モリヒトに聞いておきたいこともあったのだ。
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