ダイコク
ヤチホコは、女人を連れて逃げることは諦めた。ヤカミヒメとウサギを逃すと、持てるだけの剣を手に、山を背に、兄者たちを迎え撃つことにした。
なるべくこちらに引き付けて、囮になることにしたのだ。
モリヒトにしても、同じだった。ウサギが泣きながら教えてくれた。他にどうできると言うのだろう。
それよりも、ヤチホコには、まだ迷いがあった。兄弟たちを、伐るのか??伐らず、打たず、やりきれるだろうか。。
モリヒトは、兄者たちにきりかかったという。。正直、それを攻める気にはなれない。アタリなぞ、罪の無い女人を何人伐ってきたのだろう。。それよりは、ましな行動ではなかろうか。。
しかし、しかし、、
スクナヒメの言葉が聞こえる。
「ヤチホコ、それでは、護ってやれませぬ。」
「護ってやれませぬ。」とは、呪いなのか、予言なのか。
ヤチホコは、覚悟を決め、剣を鞘に納めた。抜かずに死ぬか、抜いて死ぬか。。
アタリが、女人を見逃す限り、自分がうまく囮になれている限り、兄弟たちに剣は抜かぬと、迷いを振り払った。

< 31 / 38 >

この作品をシェア

pagetop