ダイコク
モリヒトの困惑などよそに、
可愛らしい姫君はヤチホコととても仲良くなった。
二人とも本当に可愛らしい。白い顔立ちに薔薇色の頬、ヤカミヒメの方は、照れると顔が赤く染まる。ヤチホコが笑うと、光が弾けたようだ。
ヤカミヒメは、ヤチホコに追いかけられると、すぐにモリヒトの後ろに隠れた。
イタズラな顔でモリヒトを見上げ、「シイー」つと、唇に人差し指をあてる。
「兄者、助けて」と、笑うのだ。

ヤチホコは、ヤカミヒメが何者か、まだ知らなかった。
モリヒトは、ヤカミヒメを、「ヒメ」と呼ぶことにしたが、そんなのは、あちらでもこちらでもあだなに使われている呼び方だった。だから、5歳のヤチホコは、「ヒメ」というのが、この子の名前だと思っていた。

モリヒトもヤチホコも、「万の神」の兄弟たちは何も知らなかったが、実は、大人たちはみんな知っていた。
そして、、ヤカミヒメも、また、知っていた。
ヤチホコもモリヒトも、兄者たちに知られてはならない。ヤカミヒメの、この、儚い、幼い夢も幸せも、「万の神」に終わらされる日が近づいている。

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