全てを包んで
「雅人、会計頼む。」

「あっ、課長、私も半分払います。」

そう言って、歪む視界の中なんとか自分のバッグから財布を取り出そうとする。

「ここは俺に出すよ。上司としても、男としても、一応プライドがあるからな。」

そう言われてしまうと何も言えない。

「すみません、ありがとうございます。」

お言葉に甘えて、今日は課長にご馳走になることにした。

課長が支払いをしている間に身支度を整える。

その間にも目の前の歪みは酷くなっていく気が…。

会計が終わるまでグルグル回る視界と、睡魔への誘惑と静かに戦う。

…今にも負けそうだ。

「会計も終わったから、出ようか。」

「あっ、はい。雅人さん、ご馳走様でした。」

何とか挨拶は出来た。

本当は料理やお酒が本当に美味しかったとも伝えたかったけど、今の私にはもうそんな余裕はなかった。

酔っ払いなりに足元がフラつかない様に必死に歩く。

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