地味優等生→リアルシンデレラ ~みつけてください王子さま~
 顔を上げた先には、立花君がまっすぐに私を見ていた。

 その目は自信に溢れていて、彼ならきっと大丈夫だと思えた。私はすぐに立ち上がり、目一杯腕を伸ばして彼へとバトンを渡す。

 受け取った立花君は一瞬笑顔を浮かべた後、真剣な表情で走り始め、私はトラックの中で待機する子の中に混じって彼を目で追った。……いや、目が離せなかった。

 風を切る、という表現がぴったりで離されていた距離も縮まっていく。

 走り終わった高揚感とはまた違う胸のざわめきが私を襲う。擦りむいた足の痛さなんて全く気にならなくて、彼の声がずっと耳から離れなかった。

 そうして、私たちのクラスは見事に1位を取ることが出来た。

 アンカーもしっかり務めた彼はクラスの中心にいて、私はそれを遠目に見ているだけ。

 結果は良かったにせよ、お詫びくらいはしたいと思っていたが、さすがにその輪には入れず、汚れた足を洗いに向かう。

 校舎に近い水道は人気がなく、人目を気にしないで私は靴と靴下を脱いで、砂と血の汚れが特にひどい左足を水で洗い流していた。

 やっぱり、一言くらいは喋りたかったという後悔にため息が出た。こういう時、何の躊躇いもなく人と話せたら、友達も沢山できるのだろうな……なんて考えていると、

「ここにいたんだ、柊さん」
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