いつかウェディングベル

きっと私が会社を休んだことで心配してくれての電話だと思う。


だから、この電話に出るのが辛い。


それでも鳴り続ける電話を無視できずに通話ボタンを押した。


「はい、田中です。」


「吉富だけど、寝ていたのかな?」


「いいえ、起きてましたけど。」


電話の先の吉富さんは建物の中からの電話のようには聞こえない。電話には建物の外にいるような雑音が混ざっている。


出先からの電話なのだろうか? 少し騒々しいような音がしている。


「具合悪いのか? それだと芳樹君がいるから休めないだろう?」


「いいえ、大丈夫です。ちゃんと休んでいますから。明日には会社へ行けると思います。すいません、急に休んでしてしまって。」


「今、どこにいるんだ? 心配になって君のアパートへ来たけど誰もいないようだったから。病院なのか?」


吉富さんが私のアパートへ?!


どうして、そんなところへ吉富さんが行くの?


「いいえ」


私と芳樹を心配してくれるのは有難いけれど、ここまで親切の押し売りみたいなことされても私は困るだけなのに。


「田中、芳樹君もいるんだ。もう一度俺とのこと考えてくれてもいいんじゃないのか? こんな時、君が一人で苦しんでいるところを想像したくないんだよ。少しでも助けてやりたいし守りたいんだ。」


私の中途半端な態度が吉富さんに期待をさせてしまうんだ。


何度断ってもそれは私が遠慮していると勘違いされているのかもしれないよね?


だから、こんなに何度も吉富さんは私に結婚を望んでくる。


だったら、言うべき? 不本意ではあるけれどここは本当のことを言うしかない?


「ごめんなさい、今、私アパートにはいないの。」


「え? いないって?」


「芳樹の父親のマンションにいるの。」



そう言えば吉富さんにも分かるわよね? 


私が何を言いたいのか分かってくれるわよね?

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