いつかウェディングベル
私は芳樹の父親とヨリを戻したとそうとらえて欲しかった。


なのに、吉富さんは何を思ったのか私の考えていたこととは全く違うことを言いだした。


「もしかして無理やり連れていかれたのか?! 芳樹君の父親って最低なDV男じゃなかったのか?
そのこと専務にも知らせたのか?!」


吉富さんは何を勘違いしているのか困り果ててしまった。


この人に何を言っても都合のいい方へと話を持って行かれてしまう。


「皆、勘違いしていますけど芳樹の父親はDV男じゃありません。確かに昔捨てられはしましたけど、でも、暴力をふるうような人じゃないです。決して。逆に、私を傷つけるなんて出来ない人です。」


「その言葉信じていいの? それに、そんなこと言うのはやっぱりその男のことがまだ好きだから? だから一緒にいるのかい?」


好きだから一緒に居たい。それは当たっている。


だからとこの先何年も何十年も一緒に居れる人かと言えば、きっと、いつか私達はまた引き離されてしまう。


ううん、そう遠くない日に別れはやってくる。


ただ、その時芳樹までも奪われそうで怖い。


私にとって芳樹は生きがいなのだから芳樹がいなくなれば私は生きてはいられない。


「ごめんなさい。今はまだ何も答えたくないです。」


「だったら、そんなところ出てこいよ。俺が君ら母子の面倒くらい見るよ!見たいんだ!」


「ごめんなさい。今はここにいたいの。だから、吉富さんの気持ちにはどうしても応えられないの。」


そう言って私は携帯電話の電源を切った。


何か私に必死に話しかけていたようだけど、これ以上吉富さんと話をするつもりはないしこれ以上期待されても困る。


一時は確かに吉富さんに甘えてしまおうかという時期があった。


この会社に入社し今の課に配属になり慣れない環境で吉富さんのアプローチは嬉しかった。


とても不安だった私を支えてくれていたのは吉富さんだったのは間違いない。


だけど、吉富さんとは同僚としての感情以外何も感じないのだからこれ以上期待を持たせてはいけない。



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