いつかウェディングベル

吉富さんは私に電話を切られるとその足で私の行方を捜していた。


どうしても私との電話では納得が出来なかったのだろう。


昔捨てられた男に私は酷い仕打ちをされたと職場の皆は知っている。


捨てられたことで最悪な男だったと言ったつもりだったけれど、職場ではいつの間にか話はエスカレートしてしまい、私を捨てた男はDV男になっていた。


皆がそう思いたい気持ちは分かるけれど、透は私を傷つけるようなことをする人ではない。


だから、昨夜も、お風呂の中で眠ってしまった私を助けてくれたのだから。


恋人同士だった時も透は私にはとても優しかった。


まだ、世間知らずで何も分からない私に透はいろんなことを教えてくれた。


デートすることさえ私は臆病で会話をすることに戸惑っていたのを、丁寧に優しく手とり足とり私に教えてくれたのが透だ。


そんな昔の優しい思い出が私の心の中に今も鮮明に残っている。


だから、私を捨てたことは酷いことだけど、透を皆が思っているような酷い暴力男だとは思って欲しくない。




私は吉富さんからの電話がかなりのストレスとなった。


そして、少し眩暈がしてくると立っていられなくなり、リビングのソファーで透たちが帰ってくるのを待っていようと思った。



人を待つ間の時間がこんなに長いものだっただろうかと少し時計と睨めっこをしながら待っていた。



時計の針を見てもちっとも先へは進まない。



カチカチと動く秒針が目に入るがその動きを見ているうちにいつの間にか眠ってしまっていた。




眠っている時に、フワフワと体が浮いてまるでお風呂に入っている時のような感覚がした。


きっと夢でも見ているのだろうと私はそのフワフワ感覚を楽しんでいた。


「フフッ」と笑い声を出しながらしっかり眠っていた私。


私は心地よい眠りについていたようで台所から美味しそうなチーズの匂いがしてくるまで夢の中を彷徨っていたようだ。

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