いつかウェディングベル
実家へ戻ると我が家とは思えない程に家の中が賑やかだった。



芳樹がいるだけでそんなに騒がしいものだろうかと考えた。が、芳樹と家政婦の増田がいるだけの家でそんなに賑わうものなのだろうか？



俺は加奈子を連れてリビングへと行くとそこには芳樹と遊ぶ親父がいた。



「親父！　今日大事な会議があると言っただろう？！　会議はどうしたんだよ？！」



「ああ、我が家の一大事だ。会議は来週に延期させた。」



会議を延期させた？！　　しかし、それは大事な会議で来月までには決めたい商談なのに・・・・



「なあに、社長の一言で全ては決まるんだ。俺が来週と言えば来週なんだ。」



それって職権乱用じゃないのか？


第一、社運を賭けた商談が待っているのだろう？



「心配するな。それぞれの部署には来週までちゃんと課題を作っておいてやったよ。それより、今日はじいじとブランコで遊ぼうなぁ♪」



孫の前ではてんで馬鹿祖父だ。



「あんなに芳樹の嬉しそうな顔をしたのを見たのは久しぶりかもしれないわ。芳樹には随分と苦労させていたんだわ。可哀想なことをしてきたんだわ。」



加奈子は親父と楽しそうに遊んでいる芳樹の姿を見て涙を流していた。



芳樹の動き一つ一つに反応して加奈子は感傷的になっている。



俺達家族から芳樹を取り上げたような錯覚に陥っているように見える加奈子が心配になった。



「加奈子、芳樹は親父たちに任せて少し休んだ方がいい。医者も話していたように、美味しいものをしっかり食べてしっかり休めば加奈子の体は直ぐに元に戻るそうだ。」


「でも、」


「さあ、君はしっかり休んでくれ。」



なかなかその場を離れようとしない加奈子を言い聞かせるよりは抱きかかえて連れて行った方が早い。


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