いつかウェディングベル
加奈子をベッドまで運ぶとゆっくりとベッドに下ろし座らせた。


そして、加奈子の前で跪くと加奈子の手を握りしめた。


「加奈子のこれまでの生活を俺は口先だけで大変な目にあわせたと、これから一緒に過ごしたいと俺が加奈子と芳樹を幸せにすると、俺は加奈子の本当の苦しみを知らずに自分の気持ちばかり押し付けてきた。」



俺が加奈子と本当に幸せになりたければ、もっと加奈子を知る必要があるし加奈子の気持ちを大事にする必要がある。



「加奈子を苦しめることばかりして悪かった。でも、俺はこれ以上加奈子が苦しむ姿を見たくないんだ。それに、芳樹にも安心して過ごさせたい。母親の笑顔の中で元気な子でいて欲しいんだ。」



「透、私にはもう誰も頼る人はいないと思ったし、こんなふうに受け入れられるとは思っていなかったの。勝手に芳樹を生んで恨まれていないか不安で。私と芳樹を捨てた透を憎んで恨んで辛かった。」


加奈子の目から涙が流れた。


その涙は止まることなく頬を伝って流れ落ちる。


頬を両手で触れると、指先でその涙を拭こうとしたがそれだけでは拭いきれない。



「憎めば憎むほど恨めば恨むほど透が忘れられなくて、一時の気持ちに流されて一緒にいることは出来なくて。また、あの時を繰り返すのが怖くて。」



「加奈子を幸せにしたい。本気で加奈子の気持ちが安らげるような生活を一緒に送りたいって思ったんだ。病院での加奈子を見ていて俺は胸が痛くて辛くて、本当に苦しめることばかりしてきたと申し訳なくなって謝りたくて償いたい気持ちでいっぱいになった。」



俺の胸の痛みも苦しみも加奈子がこれまで受けた仕打ちに比べれば何てことない程度のものだ。


だけど、それでも苦しくて俺の目からも涙が流れた。



「俺は責任や償いだけで加奈子と一緒にいたくない。本気で加奈子と一緒に芳樹と幸せな生活を送りたい。加奈子と再会して、やっぱり俺の心には加奈子しかいないって思い知ったんだ。愛してるんだ、ずっと、加奈子しか愛せない。」



溢れ流れる涙は加奈子だけでなく俺もおなじでお互いの指で拭きあった。


そして、加奈子はこんな俺を抱きしめてくれた。
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