いつかウェディングベル
「ちょっと、どこ行くの?!」
私がデスクの荷物を取り出したのを見て、同僚の坂田さんが慌てて私を止めようとした。
「次の就職先探すのよ。こんな会社1秒たりともいたくないわ。」
「ええっ?!」
担当を外されただけで会社を辞めると発言した私にかなり坂田さんは驚いていた。
私も、本当ならば会社は辞めたくない。
これだけ環境が整った会社はない。保育施設のある会社も社員も上司もとてもシングルマザーに理解がある。
こんな会社は他を探してもないだろうと思う。
けれど、透に私の存在が知られてはきっと解雇されるに決まっているわ。
だって、透と昔付き合っていたのだから。
そして、父親に勧められるままに持ち上がった縁談の女性と婚約するからと私はその場で捨てられたのだから。
そんな女を手元に置いておくはずがないわ。
私だって、透が結婚した女と仲睦まじく過ごしている様子を見たくないし聞きたくもない。
あまりにも悲しすぎる。
透を心から追い出したいのに追い出せずにいる自分が情けない。
けれど、日に日に透に似てくる芳樹を見ると、透を忘れることなんて不可能だと思うようになってきた。
坂田さんだけでなく、蟹江さんや吉富さんも私が荷物を持って持ち場を離れるのを止めようとした。
ロッカールームで制服を脱いで私服に着替えると保育施設へと向かった。
便利だからと会社の保育施設に預けているが、透に芳樹を知られる可能性が高いと感じると他の施設を探したほうがいいのだろうかと悩んでしまう。
しかし、探すのは容易なことではない。
また、無認可ならば即時に預けることは可能かもしれないが・・・・
会社の近くでよい施設を見つけるのは厳しいかもしれない。
せっかく良い就職先も見つかり仕事も軌道に乗り順風満帆のように感じたのに。
この先、私達はいったいどうなるのだろう。
芳樹を引き取り早退した私は自宅アパートへと帰って行った。