いつかウェディングベル
翌朝、いつも通りに出勤してきた私。
私の姿を見ると、商品管理部門のみんなは嬉しそうに出迎えてくれた。
他人のことに首を突っ込まない同僚の岩下君以外はみんな私が出勤したことを喜んでくれた。
特に、私を口説こうとさりげなく努力している楽天家の江崎さんは喜びを全身で表していた。
せっかくみんなにこんな出迎えをして貰えたのに申し訳ないと思いながら、私は、部長のところへ退職届をもっていった。
部長に退職届を手渡すとしっかりお辞儀をして自分のデスクへと戻った。
まさか私が退職届を準備してきたとは思っていなかったようで、部長は受け取った退職届を見ると体が固まっていた。
余程の事情がない限り、こんな一流企業を自分から辞める人間はそういない。
誰もが入社したいとは願っていても、辞めたいと言う人はそうはいないだろう。
ましてや、私には小さな息子がいる。ここの環境は息子を育てるのにとても良い。
これほどしっかりした福利厚生のある会社も珍しいだろう。
そんな会社を自ら手放すとは。
子育て経験のある部長にすれば私はこの会社に勤務し続けるのが一番だと考えているはずだ。
私が退職届を部長へ渡したのを見たみんなの顔が青ざめていく。
「ちょっと! マジなの?!」
昨日私と交代になった蟹江さんは特に困惑気味だった。
「せっかくこんな一流企業に入社したのに勿体ないよ。昨日のことはあまり気にせずに考え直さないか?」
吉富さんにすれば、昨日程度で辞職の必要はないだろうと思っているでしょうね。
専務との言い争いだけで辞職を決めたのではないのよ。
私を捨てた透がここにいるから辞職を決めたの。