いつかウェディングベル

本来ならば面会時間外ではあるが、意識を取り戻し3年ぶりに親子の対面をするからと看護師にお願いして医師の許可をもらっていた。


まだ、ベッドから自由に動けない義父と加奈子が面会するのにあまり二人に興奮状態になってもらいたくないからと、


義母にお願いし事前に義父には今日のことを知らせてもらっていた。


けれど、そんな願いを頼んだ義母こそが、シングルマザーとして加奈子が苦労したことを一番心配したに違いない。


同じ女として、同じ母として、きっと、加奈子の一番辛い気持ちを理解していたのは義母かもしれない。


だから、俺を初めて見た時、義父の事故は俺とは関係ないと言いつつも俺を直視出来なかったはずだ。


俺は加奈子の両親にとっては憎くて会いたくなかった一番の人間だったのかもしれない。


そんな俺が義父を見舞うのを義母は止めなかった。


逆に、俺が行くたびにお茶を用意するなど気を遣わせてしまった。



義父の病室の前まで行くと俺の足が止まり加奈子は病室の名前札を確認していた。



「お父さん・・・・・ここなのね。」


「だけど大部屋だから静かにするんだぞ。決して大声を出さない。いいね?」


「うん、分かっているわ。」


俺が病室のドアを開けると室内のベッドに横になる患者たちは眠っている者もいたが起きている者もいて、病室へ入って来た俺達親子三人へ目が向けられた。


俺達に気付いた人達に会釈をしながら一番奥にいる加奈子の義父のベッドへと向かった。



「お父さん、加奈子よ。」


加奈子に気付いた義母は目に涙を浮かべながら義父に話しかけていた。


義父は目を覚ましているのに目を閉じたまま加奈子を見ようとしなかった。


「お父さん、加奈子が息子を連れて来ていますよ。」


義母は目から溢れる涙を堪えきれずに手で顔を覆った。


「お母さん、お母さん!」


加奈子は真っ先に義母に抱き着いて泣いていた。

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