いつかウェディングベル
3年ぶりに会うと言う期間だけの問題ではない。
シングルマザーという過酷な人生を選んだ加奈子が義母を更に苦しめたはずだ。
「加奈子、しっかりしてきたわね。もう立派な母親の顔をしているわよ。」
「ううん。お母さんみたいに出来ないよ。何もかも人を頼らないと何も出来ないの。」
「そんなことないよ。加奈子はよく頑張っているって透さんから聞いてるわよ。幸せそうで良かった。良かった、加奈子。」
母子の対面は涙を誘ってしまう。
何も知らない他の患者たちまで何事だろうかと俺達の方を見ていた。
興味本位で見られることはあまり好ましくないが親子の対面を遮るわけにはいかない。
病室内の間仕切り用カーテンを閉めて外部からの目を遮った。
出来るだけ親子だけの時間にしてやりたかった。
「加奈子、息子だそうだな。」
「お父さん、ごめんね。勝手に家を出てしまって。」
「透君から全部聞いた。お前が今幸せならそれでいい。」
「お父さん!」
義父に縋るように抱き着いては小さな子どものように泣く加奈子。
芳樹がいるのにすっかり両親の前では3年前の学生に戻ったようだ。
だけど、今だけは当時の親子に戻ったままでいい。
今は昔の様に親に甘えるのもいい。
俺が奪った時間を少しでも取り戻せるのならそれでいい。
抱きかかえる芳樹が加奈子を見て不思議そうな顔をしていた。
小さい子供には今の状況が分かるはずがない。
それも、自分の母親がまるで子どもの様に泣きじゃくって両親に抱き着いているのだから。
「透、芳樹をお父さんに見せてあげて。」
「ああ、芳樹も会いたがっているよ。」
俺は加奈子に芳樹を渡した。
きっと、俺よりは加奈子の手から義父に芳樹を見て貰った方がいいだろうから。
加奈子は芳樹を抱きかかえるとそのまま義父のベッドに芳樹を座らせた。
「芳樹、おじいちゃんよ。」
「じいじ?」
すると、さっきまで気丈にしていた義父の目からは涙が溢れていた。