いつかウェディングベル
「じいじ、いたいの?」
「違うぞ。芳樹に会えて嬉しいんだ。嬉しくて涙が出るんだよ。」
「じいじ」
芳樹が初めて会う人にこれほど嬉しそうな顔をしたことはない。
まるで分かっているのか、嬉しそうに微笑んで義父の顔に触れようと手を差し出していた。
「加奈子、父さんはまだ力が出ないんだ。芳樹を抱けない。落ちないようにしっかり掴まえていてくれ。」
「大丈夫よ。お父さんは痛くない? 芳樹が寄りかかっても問題ない?」
「ああ、大丈夫だ。そこまで軟じゃないぞ。」
力コブを見せる義父は必死に大丈夫だと言うデモンストレーションをしているのだろう。
本当は力が出なく痛みも多少は生じるのに、そうとは思わせないように必死に笑顔で隠していた。
それを見ていて俺には痛々しく感じる。
「加奈子、透君に飲み物を買って来なさい。」
「いえ、私なら大丈夫ですよ。」
「いや、母さんも飲み物が欲しいだろう。母さん、一緒に加奈子と買ってきてくれないか?」
「わかったわ。」
それは飲み物を買うために言ったのではなく、俺に何か話をする為に加奈子と義母を病室から出したんだ。
加奈子と義母もそれに気付いたのか、顔を見合わせると芳樹を抱っこして加奈子は義母と一緒に病室から出ていった。
二人が完全に病室からいなくなるのを確認した義父は俺を手招きした。
「お義父さん、大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫だ。 本当ならお前を一発殴りたいところだが、加奈子の幸せそうな顔を見ているとそれも出来ん。」
「すいません、本当に心から申し訳ないと思っています。」
「加奈子を嫁にしたことを悔やんでいるのか?」
横たわる義父は力なく見えるが、その見つめる目には力強さを感じる。
まるで俺を憎しみの目で見つめるかのように見ていた。
「まさか、とんでもない。加奈子と結婚できて幸せです。」
「だろうな。二人とも良い顔をしている。加奈子なんて益々綺麗になっている。あれじゃあ文句言いたくても言えんだろう。」
義父のその言葉を聞いて俺はホッと胸を撫で下ろしていた。