いつかウェディングベル
父親の存在は偉大なものだと感じ入った。
あれほど加奈子にプロポーズしても俺の言葉だけでは加奈子の心を動かすことが出来ず、
今度は内輪だけの挙式も俺の説得では加奈子にその気にさせることは出来なかった。
義父のほんの一言のお陰で俺達の結婚式を行うことができる。
俺自身では何もできない情けない男のように感じ落ち込みたくなる。
けれど、これまで親不孝した分、少しでも親孝行の真似事が出来れば今はそれで十分のように思える。
先ずは嫁ぎ先の柿崎家で幸せなのだと分かってもらわなくては。
その為には加奈子の両親だけでなく、俺の両親にもこのささやかな挙式に参加してもらいたい。
それからの俺達は忙しかった。
病院側の協力を得ると、出来るだけ患者に迷惑をかけないように派手でない挙式の手配をする。
事情を説明し納得してもらった神父さんに病院挙式をお願いした。
加奈子のウェディングドレスと俺のタキシードの貸し出し先を選び衣装あわせをする。
挙式まで2日しかないなか、俺達は急いで準備を急いだ。
挙式を渋っていた加奈子だが、父親の為に綺麗に着飾りたいからとドレス選びはかなり慎重だ。
楽しそうにドレス選びをしている加奈子に嫉妬してしまいそうだ。
これは俺達の結婚式なのに、まるで、他人の結婚式の様に感じるのは加奈子が俺の為に綺麗になろうとしていないから?
俺は冷めた目で加奈子を見てしまっていた。
そんな俺に気づいたのか加奈子は俺の顔をじっと見つめた。
「透の念願の結婚式なのに、どうして、透の方が父親みたいな歪んだ顔をしているの?
本当は結婚式を挙げたくなかったんじゃないの?」
「バカ言うなよ。この日を俺がどんなに心待ちにしていたのか知らないわけないだろう?」
「じゃあどうしてそんな顔しているの?」
「加奈子が父親の為に綺麗になろうとしてるからだ。」
親に嫉妬してどうすると言うんだ?
だけど、やはり、加奈子は俺の為に綺麗でいて欲しい。