いつかウェディングベル
「実は、企画会議で専務に資料を投げつけた田中ですが」
吉富さん?! 透にそんな余計な話はしなくてもいいのに!
「これです」
部長まで・・・・わざわざ私を指さして透に教えなくても、透は私が資料を投げつけた田中だと知ってるのだから。
そして部長に手渡した退職届まで透に見せないで良いですから!
「退職届? なぜ?」
私が書いた退職届を見て透は少し驚いていた。
せっかく入社したこれだけの企業を辞める理由はないと思っているのだろう。
まさか、自分が原因で私が退職するとは思ってもいなかったのだろう。
「多分、例の会議の時のことが原因かと」
吉富さん、こんな時に本当のことを言わなくても良いです。
こういう時は他の社員同様、退職届を出した社員は放っておいて下さい。
至って冷静な同僚の岩下君なんて冷めた目でこの様子を見ていますよ。
吉富さんもそんな目で見てもらって構いませんから。退職届を出したのだから。
「くだらない。 こんなの捨てておけ。」
そう言うと透は私が一生懸命書いた退職届を破り捨てた。
「ええええっ?!」
思いっきり大声で驚いたのは部長だった。
他の社員たちも目を丸くしてこの様子を見ていた。
おまけに関係のない部署の人たちまで私が退職届を書いて、それを専務である透に破り捨てられたのを見られてしまった。
きっと、このことは会社中に噂として広まるのだわ。
女子の陰口の酷さは高校時代から良く知っている。
女を敵に回すものではない。あれは実に恐ろしい生き物だ。