いつかウェディングベル
商品管理部門のあるフロアでエレベーターを降りると、俺の姿に気付いた社員達の視線を一身に浴びていた。
女性社員は顔を赤らめながら黄色い声が聞こえてくる。
はっきりとした言葉が聞こえなくても何がいいたいのか想像はつく。
販促課へと行くと俺の思った通り加奈子は社員らに囲まれるように立っていた。
パソコン画面を見ながら呆然としていた加奈子の回りを蟹江ら女性社員が取り囲んでいた。そして、少し離れたところから男性社員もらも加奈子らを見ていた。
俺が販促課へとやって来ると辺りは静まり返ってしまった。
そして、エレベーター降りたところから俺の後をついてきた社員たちまでもがこの場へとやって来た。
見事なまでの野次馬に気づくほど俺は精神的に余裕がなかった。
「専務、例え専務とはいえ勝手な撮影は如何なものかと思いますが。」
俺の姿を見て一目散にやって来たのは吉富だ。
加奈子が絡むと相手が誰であろうが必死になるのは相変わらずのようだ。しかし、つい先日あまりのしつこさに加奈子に痛い目にあったと思うのだが。
この根性は仕事で活かせば良いものを、振られた女に何時までもストーカーのように纏わりついているなんて男の風上にもおけない奴だ。
「無言なのはご自分に非があるのを認められているからなのですよね。」
ここで俺が拒否するのは簡単だ。これは俺も加奈子も知らない内に社長が勝手にしたと言えば済むことだ。
しかし、そうなるとこのドレス姿の釈明をどうするか。
ここで事実を言うべきなのか。しかし、加奈子の承諾もなく俺の判断で勝手なことは出来ない。
「いい写真だろ? 企画発案者と専務のツーショット写真。スタジオで色々な衣装を着てみたんだが、一番良く撮れていたのがこれなんだよ。」
「アンケート結果を楽しんでいた社員を騙したことになりますよ?」
『それを俺に言うなよ! 元々は社長である親父の責任なんだ。』と、言いたい気分だが、それでは俺が責任逃れしていることと同じになる。